第14回  カシオGショック5600

工業製品で世界のトップ集団をゆく日本でも、完全にオリジナルの商品は意外と少ないものです。まして、世界のライフスタイルを変えるほどの影響力を持った商品は僅かです。その代表といえば、日清食品のカップヌードル、ソニーのウォークマンなどですが、時計の概念を根底から覆したカシオのGショックもその1つです。
はじめてGショックが登場したのは1983年、20年以上前のことです。当事時計業界は、クォーツショックから立ち直りはじめ、高級な機械式時計が見直されて、次々と複雑な機構、繊細なデザインを持った新製品が発表されていました。つまり、「時計=高級品」という時代に衝撃から守るためのラバーに覆われた無骨で大きく安価な時計は、その流れに逆らうものでした。また、今ならあたりまえの「落としても壊れない時計」というコンセプトも当時としては、誰も実現したことのない画期的なもので、「時計とは大切に扱うもの」というのが常識であった日本ではなかなか受け入れられず、売り上げは不振でした。
しかし、アメリカでは、そのタフさから海軍特殊部隊が、また、新しいもの好きのミュージシャン達が愛用しました。さらに、Gショックをアイスホッケーのパック代りに使用して強靭さを実証するCMが大当たりし、瞬く間に全米で人気になりました。
日本で知名度が高まったのは、1991年の湾岸戦争で、アメリカ陸軍兵がGショック5600系のモデルを付けていたことが判明してからです。そして、1994年の大ヒット映画「スピード」でキアヌ・リーブスがDW5600C1というモデルを付けていたことで、その人気は不動のものとなりました。この5600系のモデルは、発売以来20年以上経っているにも
かかわらず殆どデザイン変更がされていないのは驚きです。なぜなら、デジタル時計は、普通の時計と違い、通常エレクトロニクス製品としてみられるからです。エレクトロニクス製品は、テクノロジーの進化とともに、ニューモデルが発売され、デザインも次々変わって行きます。例えば、ソニーのウォークマンは、カセットテープから、CD、MDと、どんどん小型化して行き、現在はipodに代表される、デジタルメモリーに記録するものが主流になり、デザインも大きさもまったく変わってしまいました。
もちろん1990年代にGショックも多くのモデル、バリエーションが発売されました。今までの5600系の四角でシンプルな形のみならず、フロッグマンの左右非対称形や、マッドマンの分厚い丸型、また気圧計などを組み込んだ多機能タイプのライズマン、各種イベントやミュージシャンなどとの、コラボレーションモデルや限定モデルなど、数え切れない種類のGショックが発売され1大ブームを巻き起こし、多くの人がコレクションしたりしました。
現在はブームも一段落し、現行モデル数もかなり絞り込まれましたが、この5600系はいまだに販売され、高い人気を誇っています。
それは、この5600系の形状が「壊れない」という機能を徹底的に追求して作られたからなのです。「形状は機能に寄り添う」というのはこのGショックを最初にデザインした「バウハウス」の理念ですが、これは、ある機能を追求してゆくと、おのずとその形状は少数(究極は1つ)に集約されてゆく、という意味です。つまり5600系は工業デザインとして一つの理想型であったため20年以上も変わらずに、なおかつ多くの人に受け入れられているのです。
また、デザインは変わらなくても、最新技術であるタフソーラー(太陽電池)やウエーブセプター(標準電波による時刻修正機能)を組み込んだモデルや、イルカ、クジラなどの限定バージョンも多数発売されています。
5600系は、まさにGショックのスタンダードであり、マスターピース(芸術品)となっているのです。