第19回  パテック・フィリップ カラトラバ タイプ96

スイスには大小無数の時計メーカーが存在します。そのなかで3大ブランドといえば、パテック・フィリップ、オーデマ・ピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタンです。いずれも創立からの歴史と伝統を護りながら、スイス時計産業の基礎を築いたブランドです。この中でも最高といわれるブランドがパテック・フィリップなのです。
それは、パテックが唯一全ての機械式ムーブメントに「ジュネーブシール」が付くことに由来します。ムーブメントにはその精度を認定するための公的機関が幾つか存在しますが、その代表格は「スイスクロノメーター協会」のものです。しかし「ジュネーブシール」はこの「スイスクロノメーター協会」より厳しいものとして特別扱いされています。それは、「ジュネーブシール」が、12点にもおよぶ厳しいムーブメント製作上の技術基準から成り立っており、時計製作において最も栄誉があり、最高の公的認定とされているからです。
このジュネーブシールは、かつて心無い時計メーカーがジュネーブ製時計の名声を利用し、ジュネーブ以外で製造した粗悪品をジュネーブ製と偽って販売したことへの対抗策として作られました。これはスイスのジュネーブ州において製造、組み立て、仕上げ、調整が行われたもののみに付けられ、特に部品の形状、仕上げに関して非常に細かな規定があるのが特徴です。
そしてパテック・フィリップ創造した時計の中で究極のスタイリングを持つと言われているのが、カラトラバシリーズの中でタイプ96と呼ばれるものです。カラトラバの名前は、1158年ムーア人の侵略からスペインの町カラトラバを守った宗教騎士団に由来し、この騎士団のシンボルであるカラトラバ十字をパテック・フィリップのエンブレムとしました。カラトラバタイプ96は1932年に発売されましたが、当初カラトラバというカテゴリーは存在せずラウンドのケースにラグ(本体とベルトを繋ぐ部分)からリューズにかけて流れるような曲線美を「カラトラバライン」と呼んでいました。それが後にラウンドケース全般を代表するシリーズ名となりました。そのため歴代のカラトラバラインには、様々なタイプが存在しますが、時代の転換期には必ず、タイプ96のカラトラバラインを持った形に帰結しています。1982年に発売されたカラトラバ3796もその1つです。まさに普遍のデザイン、バランスに帰結した名品です。すこし小ぶりな32mmケースに、上すぎず、下すぎず、人の感性に最もフィットする絶妙の高さに配置されたスモールセコンド、しっとりした光沢感のダイアル、シンプルでありながら、細部に至るまで計算され尽くした隙の無いデザインは、時代を経ても決して色褪せることのない「究極の美」を表現しています。現在、カラトラバ3796の生産は終了し、2004年のバーゼルフェアにおいて、その後継機であるカラトラバ5196が発表されています。この5196は、3796と比較してケースサイズが一回り以上、37mmに大型化されており、「正統なる異端児」と呼ばれています。しかし、カラトラバのバランスは完全に保たれており、96系の持つ独特の雰囲気は確実に受け継がれています。