第20回  IWC(インターナショナルウォッチカンパニー) ダ・ヴィンチ

IWC(インターナショナルウォッチカンパニー)はアメリカの時計師、フローレンス・アリオスト・ジョーンズによってスイスのシャフハウゼンに1868年に創設されました。 なぜ、アメリカの時計師がスイスに創設したのか、というと、アメリカで当事主流になっていた機械自動化の技術とスイスの伝統的な手工業が中心のスイス時計産業に導入し、より効率的で完成度の高い時計生産を目指したためでした。 しかし、熟練の職人技と機械自動化技術の一体化を図るには時代が早すぎたようで、実際にスイスの時計メーカーとしての地位を確立したのは、20世紀半ばでした。
そのころ、第二次世界大戦で軍用時計の需要が急増し、特にパイロット用の 航空時計はより高い耐久性と精度が求められ、IWCの時計は、アメリカ兵士 に愛用され、イギリス軍などに正式採用されたのです。 IWCの時計では、1930年代ポルトガル人のオーダーで作られた懐中時計と 同じ大きさを持つ腕時計「ポルトギーゼ」や、ムーブメントを軟鉄インナーで覆った超耐磁性能を誇る「インヂュニア」、機械式水深計を搭載した潜水時計「ディープワン」などが知られていますが、IWCの名を最も知らしめたのは1985年発表の、世界唯一400年調整不要の機械式永久カレンダーを持つ「ダ・ヴィンチ」です。一般的に機械式カレンダーはその機能によって分類されます。通常の機械式カレンダーは31日ある月と30日しかない月の区別が自動でできないので、1ヶ月に1度調整する必要があります。 これを月次カレンダーと呼びます。月表示のあるカレンダーであっても30日、31日の区別をして自動的に切り替えてくれなければ、月次カレンダーです。1年に1回、2月のみ調整が必要なものを年次カレンダーと呼びます。4年に1度訪れる閏年の時だけ1回のみ調整必要なものを4年カレンダーと呼びます。これに対して、閏年も自動調整するものを永久カレンダーと 呼びます。
他メーカーでは、パテック・フィリップ、ユリス・ナルダン、ゼニス、ブライトリング等が機械式永久カレンダーを搭載した時計を出していますが、いずれも300万円以上するモデルばかりです。ここで、実は閏年は100年に1回訪れない年があります。西暦2000年がこれに当たり、厳密にいうと、現行の永久カレンダーは2100年には調整を しなければならないことになります。これを自動調整して、400年に1度の 閏年が復活する2499年まで調整不要の、永久カレンダーを搭載したのが、「ダ・ヴィンチ」であり、しかもそれをSSモデルでなら200万円以下という低価格で提供しているのです。確かにこれを機械式で実現してまうということは、技術的にはすごい事なのですが、永久カレンダー自体は、デジタルを使えばずっと安価で、本当の意味で永久になりますし、現実問題として400年もゼンマイや歯車等の部品どころか、最初の持ち主の寿命すら持ちません。また機械式である以上、3~4年に1度の オーバーホールは必要になり、当然カレンダーも調整し直すため、あまり意味のないことかもしれません。(オーバーホールにかかる時間と費用を考えると恐ろしい気がしますが…)しかし、一見、無駄に見えることに最高の技術と情熱、多額の開発費をそそぎこんだ時計を所有することは、最高の贅沢かもしれません。