第22回 独立創作時計師協会(通称アカデミー)

時計王国スイスにおいて、どこの時計会社にも属さず、個人で、殆ど手作りで時計を製作し、販売している工房があります。そしてその独立時計師たちが集まり、団体を作っています。
それが独立創作時計師協会(通称アカデミー)なのです。彼らの独創性や技術力は非常に高く評価され、世界の時計業界でも一目おかれる存在となっています。現在の会員は20名ほどですが、新規参加や会社を興して脱退する会員もいて、正確な数は不明です。 現在大ブレーク中のフランク・ミューラー氏も独立創作時計師協会(以後アカデミーと称す)に所属していました。アカデミーは独立時計師のヴィンセント・カラブレーゼ氏、スヴェン・アンデルセン氏らが中心となり、1985年に設立されました。
その他にフィリップ・デュフォー、キュー・タイユウ、ヴァネイ・ハルター、フランソワ・ポール・ジュルヌ、アントワーヌ・プレジソウなどが名を連ねています。アカデミーが設立される前の80年代前半、機械時計中心のスイス時計産業界はクォーツショックにより壊滅寸前の状態でした。大規模な有力ブランドはクォーツ時計を生産するか、あくまで機械式で対抗する資金力がありましたが、多くの中小ブランドにとっては厳しい時代でした。
この危機を救ったのが、ユリス・ナルダンのルードヴィッヒ・エクスリン博士でした。1985年に発表された「アストロラビウム・ガリレオ・ガリレイ」はその複雑さとデザインから、機械式時計を見直させるきっかけとなり、スイス時計産業界を復興させる起爆剤となりました。これを機に独立時計師たちは、自由な発想で腕時計を作り始めました。彼らは、ムーブメントやケースの製作から、芸術的な文字盤装飾などの仕上げまで、一貫して自分で行うマニュファクチュールを徹底し、巨大ブランドにはできないユニークなモデルを作ることが出来たのです。彼らの作品はどれも個性的で、一目見たら忘れられなくなるようなものばかりです。毎年のバーゼルフェアにも小さなブースながら出展し、知名度も上がってきましたが、生産数が少なく、価格も数百~数千万円もするものが中心であり、今まではマニアックなコレクター以外に手にすることはありませんでした。しかしここ数年、ユニークながら低格の商品も出してきており、中には機械式で30万円代で手に入るものもあります。アカデミー所属の独立時計師のなかで最もユニークかつリーズナブルな価格で作品を提供しているのが、アカデミー創始者の1人である「ヴィンセント・カラブレーゼ」です。この時計師は天才魔術師と呼ばれおり、ほとんど独学で時計の修理、製作技術を学んでいます。現在、クォーツ1種類、機械式6種類の計7つのモデルが発表されていますが、どれも不思議な機構を有しており、まさしく魔術師の名にふさわしい作品です。
唯一のクォーツ時計「モナリザ」は6時位置にモナリザの絵があり、それが、12時から始まって、1時間ごと(正時)にジャンピングアワーと同じ仕掛けで瞬時に絵が変わるというものです。(どう絵が変わっていくのかは秘密!?) これは10万円です。 「サントラル」というモデルは、大きな数字のジャンピングアワーが時計の中央に配置されており、その周りを分表示の矢印が回転するもので、どんな機構になっているのか見当もつきません。(60万円) また、矢印付ジャンピングアワーの数字自身が外周を回りながら、分を表示する「バラディン」(32万円)、昼と夜で文字盤の数字が、アラビア数字からローマ数字に瞬時に変わる上に、12時位置には日付表示まであるという「ナイト&デイ」(43万円)、月、曜日、日付のトリプルカレンダーに加えて、52周表示、パワーリザーブまでついて、しかもそれを1つのリューズのみで操作する「フィフティーツー」(70万円)などなど、持っていれば注目間違いなしの作品ばかりです。 しかもこの機械式のベースムーブメントはすべて「ETA2892A」という一般的な汎用ムーブメントであり、ヴィンセント・カラブレーゼは、この複雑な機能を、極めてシンプルなメカニズムで実現してしまうのがすごいところです。もし機会があれば、現物を見てみることをオススメします。
誠に残念ですが、ヴィンセント・カラブレーゼの時計は現在非常に入手困難な状態にあります。しかし、2004年にヴィンセント・カラブレーゼ氏が新ブランドNHC(エヌエイチシー)を立ち上げており、こちらのブランドにも似たような機構の時計があります。 ぜひ、そちらもご覧ください。

ヴィンセント・カラブレーゼ、NHC(エヌエイチシー)取り扱い:スイス デザイン オンタイム(株)
TEL 03-3524-2022
公式ホームページ(英語) http://www.vincent-calabrese.ch/