第23回  モントル ブガッティ タイプ370

イタリアの高級スポーツカーメーカー「ブガッティ」とスイスの神の手を持つ時計師と言われているミシェル・パルミジャーニ氏が創設した「パルミジャーニ・フルリエ」とのコラボレーションで生れたのが、この「モントル ブガッティタイプ370」です。ブガッティは2001年に1000馬力のW型16気筒エンジンを搭載した 「ブガッティ ベイロン16/4」 というスーパースポーツカーを発表しています。そしてこの車の開発に合わせて、この車のイメージを持つ時計として製作されたのが、この「モントル ブガッティ タイプ370」で、プロトタイプが2002年にSIHHで発表されました。この時計は、今までに無い多くの特徴を持っていますが、その筆頭は、そのケース形状にあります。腕時計は、通常は針の軸を腕に対して垂直に配置しますが、このタイプ370は水平に配置しており、普通の時計であれば、側面にあたるところに文字盤があります。車を運転中に腕時計を見ようとする場合は、ハンドルから腕をはなして、手首を返して文字盤を見ることになりますが、このタイプ370はハンドルから手を放さずに、文字盤を見ることができる様になっているのです。
また、通常の時計では文字盤に当たる部分を含め5個所の窓が設けられ、中の機械の動く様があらゆる方向から眺められます。まるで、エンジンを腕に装着しているような感覚で、まさに車のエンジンからインスピレーションを得ていることが良く解かります。また、内部に使用している歯車に、ブガッティのスポークホイールのデザインを採用し、車では必ず採用されていますが、時計ではまず使われたことのなかった歯が45度傾斜したベベルギアやナットを使うなど、いたるところで時計と車の融合を意識した設計となっています。 また、ムーブメントとケースは4個のサイレントブロックを介して接続されており、外からの振動がムーブメントに伝わらないようにされています。これもエンジンとフレームの間にダンパーを入れてエンジンの振動を車体に伝えないようにする自動車と同じ構造となっています。さらに、時刻の調整とゼンマイの巻き上げに2つのリューズがケース裏面に配置されていますが、この操作に専用のスターターと呼ばれる器具を使用します。このスターターにはゼンマイが組み込まれており、クリップ部を回してゼンマイを巻き、そのエネルギーで時計本体のゼンマイを巻上げるしくみです。
ゼンマイはツインバレル(2個組)でパワーリザーブは10日間におよびます。このスターターには巻き上げ時の力の係り具合を検知する複雑なクラッチが組み込まれており、時計本体に匹敵する最新技術が使われています。そしてこのスターターの開発には3年もの歳月がかけられているとのことです。また、時刻調整はスターターの先端を別のものに交換して行います。どちらの操作にしても、スターターという特殊な専用器具を使用することで、サーキットにおけるF1マシンのピット作業を連想させ、時計ではなく車を所有しているような気分にさせてくれます。
もっとも、この時計は世界限定150本で価格はなんと¥28,500,000(税別)と、スーパースポーツカーに匹敵しますので、車を所有しているのと同じ感覚になっても不思議ではないかもしれません。ちなみに「ブガッティ ベイロン16/4」は2005年に東京モーターショーで市販車として正式デビューしましたが、価格は1億6300万円(税別)とのことですので釣り合いはとれるかも……?