第3回  ロレックスサブマリーナ

いよいよ真打の登場!高級機械式時計といえば、誰もがまず思い浮かべるのが、このロレックスです。なぜ、これほど有名なのでしょうか?
これは一言でいえば、「宣伝戦略のうまさ」に尽きると思います。
ロレックスの創業は1905年で、ブランパン(1735年)、ヴァシュロンコンスタンタン(1755年)、ブレゲ(1775年)、ジラール・ペルゴ(1791年)、パテック・フィリップ(1839年)などの他の名門に比べて100年近く後発となります。また、1904年にカルティエが本格的な実用腕時計のサントスを発表したことにより、各メーカーともぞくぞくと腕時計市場に参入を始めた時期でもありました。そんな中、ロレックス創設者のハンス・ウィルスドルフは、新規参入ゆえのメリットを生かすことで、老舗の時計メーカーとは異なる戦略を明確に打ち立てました。
当事の老舗メーカーは腕時計に精度や装飾を追い求めていましたが、創設者のハンスは当初から、耐久性や防水性能を考えていました。今でこそ、これらは腕時計にとって当たり前のスペックですが、当時はほとんどのメーカーは考えも及ばなかったアイデアでした。当事、時計そのものが大変高価であり、顧客は貴族や会社社長等の富裕層に限られていました。お互いが自分の腕時計を自慢しあうため、より高精度で素晴らしい装飾が施された芸術品のような時計の需要が高く、そのような腕時計を乱暴に扱ったり、水につけるなど、まったく考えられないことでした。
そうした中でロレックスは完全防水を実現した耐久性の高いオイスターケースを発明し、1926年に特許を取得しています。このオイスターケースとは、無垢の金属塊からそのまま削りだして生成したケースにネジ込み式の裏蓋およびリューズを搭載したものを指します。こうすることで、時計内部への水の侵入だけでなく、ほこりの侵入までも防ぐことができる極めて優れた構造を持つ時計ケースでした。しかしこの画期的なケースを用いて製品化された時計がすぐに顧客に受け入れられたわけではありませんでした。
そこでロレックス社のとった作戦は、その防水性能を知らしめる広報活動にほかなりませんでした。
1927年、イギリスの女性記者メルセデス・グライツ嬢がロレックス社製の腕時計を着けてドーバー海峡を泳いで渡った、という有名なエピソードがあります。
このことはすぐさま、新聞で記事にとりあげられました。この記事によりロレックス社製の時計は水に強い、という印象を世間に強烈に与えました。
また、この快挙をモチーフにして広告も作られ、オイスターケースが防水に優れているということが、知れ渡るようになりました。
そして1953年、潜水艦の意味をもつサブマリーナの原型が完成します。完全な防水を実現したオイスターケースに包み込まれ、回転式ベゼルやネジ込み式リューズを搭載した本格的な潜水用スポーツモデルです。50年代初頭はダイビングが一般的なマリンスポーツとして認知されつつある時代でした。
このニーズを捉えて、ダイビングに造詣の深いスタッフらの手によってサブマリーナの開発がすすめられたといわれています。特に、現行まで続くダイアルデザインは視認性にこだわったロレックス社の姿勢や質の高さを感じさせ、実際にダイビングを体験した人間が開発に携わっていたことをうかがわせるものです。そして1954年に世界最大の時計博覧会、バーゼルフェアで初代サブマリーナが発表されました。
2004年には、サブマリーナ誕生50周年を記念してロレックス社のブランドイメージカラーであるグリーンをベゼルに使用したサブマリーナが期間限定で発売されています。