第10回  ジャガールクルトレベルソ

皆さんはマニファクチュールという言葉をご存知でしょうか?これはムーブメントおよび外装部品の製作から、組み立て、ケーシング、精度検査まで時計製造の全行程を一貫して自社内で行う会社にのみ与えられる呼び名です。
時計王国スイスにおいてもマニファクチュールは数社に限られてしまいますがその代表的なメーカーの1つがジャガールクルトです。
ジャガールクルトは、1833年に小さな時計部品製造会社を前身として始まりました。創業者のアントワーヌ・ルクルトは、他のブランドのように時計職人ではなく、時計を作るための工作機械の設計を行うエンジニアでした。時計の製造工程の開発を続けるうちに、次第に主要な精密部品を製作するようになり、1890年には、ムーブメントそのものを製作するようになっていました。
1903年に、長年協力関係にあった、エドモント・ジャガーと正式に事業提携を結び、社名をジャガールクルトに改名し、精密機械メーカーとともに、ムーブメント供給メーカーとして、その名が知られるようになりました。
そして、1931年に「レベルソ」が誕生します。レベルソは当時、貴族達の間で盛んだったポロという競技(1チーム4人が馬に乗って、マレット呼ばれるスティックで一つのボールを相手ゴールに入れて、点数を競う競技。アイスホッケーなみの激しさがある)のために開発されたモデルです。
レベルソの最大の特徴は、ポロの激しい運動中の衝撃からガラス面を守るため時計本体のケースそのものが180度反転して、内側に収まるというものです。この独創的なアイデアとともに、完成度の高いアール・デコのスタイルは、発表と同時に世界から高く評価され、ジャガー・ルクルトの代名詞とも言われるモデルとなりました。
また、素材に世界で初めてステンレススチールを採用し、注目を浴びました。レベルソは1931年の発表以来、様々なバリエーション
を生み出し、改良を加えてはきましたが、基本的なデザインは継承されています。角型の反転ケースで完璧なアール・デコを表現し、その独創的なアイデアとともに完成された美しさは、発表以来70年以上たった今でも変わることはありません。もとは男性用に開発されたレベルソですが、エレガントさとスポーティーさが調和したデザインは、この時計が生れた時代の女性像に通じるところがあり、それが現代にも共感を呼んで、特にヨーロッパの女性の間で人気が高まっています。
レディースモデルのレベルソ・デュエットは活動的な昼の時間と優雅な夜の時間を、反転ケースを使い、みごとに表現しています。数多くあるレベルソのバリエーションの1つ1つが、持つ人に他の時計には無いもう1つの楽しみを与えてくれます。反転して現れるゴールドもしくはステンレスのケース裏側に、オーダーメードで熟練した技術者の手で、イニシャルの刻印やエナメル細密画を描くことができます。また、裏面にも文字盤を設け、第二時刻を表示したり、クロノグラフを搭載するモデルもあります。
1991年より限定発売されている「コンプリカシオン」シリーズは、ムーンフェイス、パワーリザーブ、トゥールビヨン、永久カレンダー、
ミニッツリピーターなどの複雑機構を組み込んだモデルになっています。このレベルソシリーズに搭載される角型ムーブメントは、現在に至るまで、世界で唯一、専用かつオリジナルにこだわり、開発されています。
そしてジャガールクルトはマスターコントロールという厳しい検査を行ってその信頼性を高めています。この検査は、通常のクロノメーター規格よりも過酷な検査で、6姿勢における精度、パワーリザーブ、防水、耐磁、温度差、耐衝撃など様々なテストが1000時間(約6週間)にわたって行われます。この検査は、ムーブメント単体ではなく、出荷前の完成品で行われ、合格した製品には、技術者が、裏蓋の内側に「マスターコントロール1000HOURS」と自分の署名、合格日付の刻印がされます。
ジャガールクルトの哲学は「本物」「独創」「普遍」「革新」です。単に技巧に走るのではなく、時代が何を求めているのか、時計としての真のあり方を考え、技術者の知恵と技によって創られた時計には、本物にしかない威厳が感じられます。
独創的な反転ケースを持ち、1931年に登場してから今日まで普遍的なデザインを継承し、革新的な機能を付加したモデルを次々と
生み出すレベルソは、まさにジャガールクルトの精神そのものが形になったものなのです。