第11回  タグ・ホイヤー2000アクアグラフ

1982年タグ・ホイヤーはダイバーズウォッチ2000シリーズを発売しました。このシリーズはダイバーズウォッチとしての優れた基本性能とその洗練されたデザインで、絶大な人気を誇っていました。そしてこの2000シリーズが誕生して20周年の節目に、タグ・ホイヤーの原点に立ち返ったモデルを作ろうということになりました。そして完成したのがこの「2000アクアグラフ」なのです。
ダイビングウォッチとしての基本を徹底的に見直し、完璧な安全性を実現する最強のモデルというコンセプトで開発が始まりました。通常は外部協力者を含めても10人たらずで開発するところを、技術者、マーケティングなどの社内スタッフ10名以上、デザイナーサプライヤーなどの外部スタッフに加え、プロダイバーやインストラクター、海底探査のエキスパート、地質学者など総勢40名を超す人々が関わりました。
まず、プロダイバーから徹底的にヒアリング調査を行い、ダイビングウォッチに求められる機能および今までのダイバーウォッチの問題点を洗い出しました。その結果、海中でも操作できるクロノグラフ機能、減圧時間を正確に確認できる視認性の高い60分積算計、数週間の海底船内活動を行う場合に必要な昼夜表示の24時間計、ねじ込みリューズの締め忘れを防ぐインジケーター、外部からの力でベゼルが不用意に動いてしまわないようにする自動ロック機能など、今まで考えが及ばなかった要求が出てきました。これらは、機能性、操作性、安全性を極限まで追求してはじめて必要となったスペックだったのです。
まず、海中でも操作できるクロノグラフ機能ですが、2000アクアグラフはプッシュボタンをラバーで完全に覆うことにより、ケースとの密着度を高め、水の浸入を防ぐことにより解決しました。そしてそのまわりをさらに金属板でビス止めすることにより完璧な気密性を実現しています。
これまで、クロノグラフ機能をもったダイバーウォッチはありましたが、海中でプッシュボタンを操作することは、水の浸入の恐れがあるため出来ませんでした。唯一可能だったのはブライトリングのクロノアベンジャーM1ですが、操作ボタンの動きを磁石で内部に伝える方式で、ボタンは内部に連結していない構造でした。これはクォーツ仕様だから可能だったのであり、機械式で水中でのクロノグラフ動作を可能にした2000アクアグラフは画期的でした。
視認性の高い60分積算計はセンターにクロノグラフ秒針と、60分積算針を持つ新開発の「キャリバー60」を搭載することにより実現しています。現行のクロノグラフムーブメントでセンターに60分積算針を持つ機種は非常に少なく、もっともポピュラーだった
レマニア5100は生産中止になってしまったため、このムーブメントを使っていた時計は生産中止になったり、60分積算針がインダイアルの位置に変更になったりしています。ねじ込みリューズの締め忘れ対策として、きちんと締まっていない時は赤いパッキンが見えるようになっており、ベゼルも正面から押し込んだ状態でないと回転しないようにロックバネが入れられました。また、ケースサイドには
高深度の飽和潜水に対応するためのヘリウムガスエスケープバルブも装備されており、まさしくプロフェッショナルのための、最強のダイバーウォッチとなっています。