第17回  オーデマ・ピゲロイヤルオーク

雲上ブランドの1つオーデマ・ピゲの手がけたスポーツ時計の代表作がこのロイヤルオークです。この時計は1972年にバーゼルフェアで発表されましたが、この時計を始めて見た人々の驚きは大変なものでした。
当時のスイスの超高級ブランドがつくる時計のデザインは、クラシックな伝統的なフォルムに貴金属のケースが常識でした。そのような時代に初めてのステンレススチール製のケースに、8角形のベゼルやそれを固定するネジを表に出す構造、さらに1つ1つの駒の大きさが異なるブレスレットなど多数の革新的アイデアが盛り込まれた独創的な、まさに常識を覆すモデルに多くの人が圧倒されてしまったのです。
1972年当事、ロレックスでは、シードウェラー、エクスプローラーⅡなどが既に発売され、ステンレス製のスポーツ時計そのものは珍しいものではありませんでしたが、それらはあくまで実用時計であり、高級品とは見なされていませんでした。それより2年前の1970年にオーデマ・ピゲは、販路拡大のため、新しいステンレス製の時計の開発に着手しました。それまでは少量の伝統的な超高級時計しか製造しておらず、全く未知の領域でしたが、どうせ作るのであれば、それまでにない独創的なコンセプトのスポーツ時計を作ろうということにないました。
そこで世界のカリスマ的時計デザイナーのジェラルド・ジェンダ氏にデザインを依頼しました。ジェンダ氏は、このロイヤルオークの他に、パテックフィリップのノーチラス、カルティエのパシャのデザインを手がけたことは、あまりにも有名な話です。ジェンダ氏は、このロイヤルオークのデザインを1日で生み出したと言われています。ロイヤルオークの最大の特徴とも言うべき8角形のベゼルは、1862年に建造された大英帝国の戦艦「ロイヤルオーク」号よりヒントを得ています。スポーツ時計には屈強であることが求められますが、ジェンダ氏は、耐久性をなにより求められる軍艦の舷窓に使われていたその8角形のデザインに、インスピレーションを感じました。また、ベゼルとケースの接合もその舷窓に倣い、むき出しの8本のネジで行う方式をデザインしました。ところが、このデザインに依頼した当のオーデマ・ピゲ側が驚いてしまったのです。今でこそ20世紀最高の時計デザインと賞賛されるロイヤルオークですが、8角形のベゼルはまだしも、8つのネジが丸見えになっているのは、伝統的な当時のスイス時計にとって完全なタブーだったのです。しかし、そのデザインの斬新な発想は、独創的なスポーツ時計を求めていたオーデマ・ピゲ側に受け入れられました。この8本のネジはベゼルから裏蓋までを一貫して固定する新方式を取っており、スポーツ時計に求められる防塵性を高めるための裏蓋の無いワンピース構造となっています。また、時計本体と一体化したブレスレットとさらにその駒を連続的に小さくして行くことで独自の装着感を生み出しています。
そして2年の開発期間を費やして誕生したロイヤルオークですが誕生以来、30年以上たった現在でもこれを越える高級スポーツ時計がいまだに現れていないことが、いかにこのデザインが時計の基本的なコンセプトや構造と調和し完成度の高いものであったかを物語っています。
現在、基本的なデザインを護りながら、様々なバリエーションが出ています。映画「ターミネーター」シリーズでアーノルド・シュワルツネッガーがロイヤルオークを使用し、限定のコラボレーションモデルも発売されています。