第31回 オメガ シーマスター アプネアマイヨール

オメガシーマスターといえば、ダイバーウォッチの代名詞として広く知られており、スピードマスターと並ぶオメガの主力機種です。自動巻きやクォーツ式、サイズや文字盤の色、性能、機能の異なる様々な機種と、限定モデルなど、多数リリースされており、価格帯も10万円代からあるので、時計所有率として、数あるダイバー時計の中でNo1を誇ります。
シーマスターは発売当初は、日常防水機能程度しか有していませんでしたが、1955年、ロレックス初代サブマリーナとほぼ同時期に、「シーマスター300」という、当時としては非常に高い200mという防水性能を持った時計を発表してから飛躍的に進歩しました。その高い防水性能が、イギリス海軍の目にとまり、正式採用されることにより、本格的な防水時計として、世界中に認知されるようになりました。さらに、1970年代に、石油会社が実施した海底油田探査「ヤヌス計画」にワンピースケースの「シーマスター600」を提供し、深海250mで8日間、ダイバーの活動をサポートしたが、故障1つせず、驚異的な防水性能と耐久性を示したことにより、本格的プロダイバー時計の地位を確立しました。また余談ですが、シーマスターは映画「007」シリーズで歴代ジェームズ・ボンドの秘密兵器としても何度も登場しています。特にピアーズ・ブロスナンのボンドが使用している、ヘリウムエスケープバルブ搭載のシーマスタープロダイバーズ300は、レーザー光線が出たり、ワイヤーロープが出て、壁によじ登ったりと、ものすごいことになっています。
そして、81年、伝説のプロダイバー、ジャック・マイヨールがオメガシーマスターと出会いました。マイヨールはその年、イタリア、エルバ島沖で無呼吸潜水101mという当時の世界記録を樹立しましたが、その時使用していたのが、「シーマスター120」でした。 このモデルはマイヨールが視認性の高い文字盤と、十分な防水性能を求めたマイヨールが、オメガと共同開発した機種でした。 その後、オメガはジャック・マイヨールの限定モデル(現行のシーマスターをベースに文字盤を限定用に変更したもの)を95年から毎年リリースしますが、2001年、マイヨールが亡くなり、2002年モデルを最後に、途絶えています。そして、マイヨールが生前、一目で潜水経過時間が把握できる特殊なカウンター付モデルの開発を依頼しており、それにより、2003年に発表されたのが、このシーマスター アプネアマイヨールなのです。
アプネアとは、無呼吸潜水つまり素潜りの意味で、文字盤には7つのカウンター窓があります。 この窓は、クロノグラフを作動させると、1分に付き1つの窓は赤く変わってゆき、ひと目で時間経過が分かるようになっています。7つの窓、すなわち7分間とは、人間が息を止めていられる限界時間といわれており、それ以上呼吸をしないと、酸素不足により脳に重大な障害が起きる可能性があるということです。また、深海に潜って、浮上する場合、潜水に要した時間よりも多くの時間を掛けないと、深海の高圧により血液中に溶け込んだ窒素が急激に膨張して血管、特に肺で障害を引きおこすいわゆる「潜水病」になってしまうため、限界時間を把握することは命にかかわってきます。映画「グランブルー」はジャック・マイヨールをモデルにしていますが、主人公のライバルに扮するジャン・レノが限界を越えた無酸素潜水を行い、世界記録を更新したあと、深海に沈んで行く姿と、ラストシーンの夜の海で主人公が死を覚悟してたった1人で、同じ深度に挑んで行く姿がとても印象的でした。海がとても奇麗ですので興味のある方は、ご覧になってみてはいかがでしょうか?