第16回  なぜロレックスは人気があるのか その1

今日、世界で最も有名で人気の高いブランドはロレックスです。
高級時計に興味のない人でもロレックスの名前は知っています。 なぜこれほど有名になったのでしょうか?
ロレックスが誕生したのは、1905年です。当事、パテック、ブランパン、ヴァシュロンなどロレックスに比べて100年以上の歴史を持つ老舗の高級時計ブランドがひしめく中で、ロレックスは一介の新興ブランドに過ぎませんでした。 そんなロレックスが僅か1世紀で世界のトップにのぼりつめた理由はいったい何なのでしょうか…?時計の専門家の多くは、「ロレックスは先見性を持っていた」と考えています。その先見性とは、20世紀初頭、高級腕時計は一部の富裕層のコレクションもしくは玩具的存在でしかなかった時代に、いずれ、より多くの人に真に実用に耐える時計が求められる時がくると考え、耐久性や視認性を重視した時計を世界に先駆けて開発したことに尽きます。 まさに実用性を探求することそのものが、ロレックスの歴史なのです。では、その実用性とは、どのようなものなのでしょうか?
あまりにもメジャーになり、見慣れてしまったロレックスのデザインですが、その製造方法、内部の機構は、発明の宝庫であり、特許の塊となっています。
現在ではあたりまえの防水機能も、世界で初めて完全防水を実現したのは、
ロレックスのオイスターケースで、1926年に特許を取得しています。また、その防水性を補完するため、ネジ込み式リューズ、トリプルロックリューズを開発し、1952年に特許を取得しています。新興ブランドであるロレックスが世界的な成功を収めるためには、他社との差別化が必要でした。 そして、ロレックスは当時他の時計ブランドが着手していなかった「完全な防水機能」の実現に賭けたのです。
それがオイスターケースの開発でした。 通常、時計メーカーや部品メーカーは、時計のケースを製造する場合、鋳型を起こして、溶融させた金属を流し込む方法をとります。 この方法は、迅速に同質のケースを大量生産することが可能であり、またデザイン変更があっても、製造工程を変更する必要がないため(鋳型のみの変更で済む)コストダウンが見込めます。しかし、ロレックスは金属塊よりくり抜く方法で、オイスターケースを製造しました。 金属板よりベースをくり抜き(右図)、何段階もプレス成形し、機械加工を経て、仕上られます。 この方法をとることで、材料に継ぎ目や、鋳込み製法につきものの内部欠陥が無い、高い防水性を誇るケースが製造できます。
しかし、設備投資が膨大になること、プレス成形に非常に高い技術力が必要なこと、デザイン変更が大変であることが、これの欠点です。
オイスターとは、英語で「牡蠣(カキ)」のことで牡蠣の殻のように強固であるということから、ネーミングされ、特許取得と同時に商標登録もされています。 現在でこそ、このオイスター方式は、高級時計のケース製造方法として当たり前になりましたが、これを最初に考案し、実現したのは、ロレックスです。
このことからも、ロレックスは先見性を持っていたことがわかります