第19回 芸術品「クロワゾネ」ダイアル

皆さんは「クロワゾネ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
耳慣れない言葉ですが、どこか不思議な響きを持っています。「クロワゾネ」とはフランス語で「仕切る」という意味があり、日本語では「有線七宝」と呼ばれています。 表面にダイレクトに絵を描きいれる「本七宝」とは異なり、貴金属の線によるアウトラインを作りその領域にガラス質の1種であるエナメル系の釉薬を流し込み、1色ごとに焼き入れを行って、最後に磨きをかける、非常に手間のかかる高度な技術を要する方法です。この「クロワゾネ」のもととなる「七宝」の歴史は、古代エジプトまで遡ることができ、中世ではキリスト教に関する作品が多数残されています。
1600年代、懐中時計の蓋にエナメルで肖像画や風景画を描くことが大流行して、現在ジュネーブのパテックフィリップミュージアムでその実物を見ることができます。 また1950年代に作られた、クロワゾネ文字盤を持つパテックフィリップの腕時計はオークションで2億円ぐらいの値段がつくほど貴重なものです。
クロワゾネ文字盤の製作は、殆どが職人の手作業で行われます。 まずベースとなる貴金属の板に仕切りとなる線を張りつけ、もしくは板そのものを削り込み、釉薬をのせる窪みを造ります。 後で何度も焼き入れをして歪みが出ることを想定して、この時点でベース板の厚みの微調整が行われます。
このベース板をまず、7~800度に熱した電気炉で焼き、油や塵を焼き飛ばして釉薬のノリを良くする下準備をします。 ベースが銀の場合は焼くと酸化膜が張るため、希硫酸で2~3分煮て、重曹で洗浄し、脱イオン水で洗ったあと、乾燥させて表面を化学的に安定させます。 このように下準備を行ったベース板を10数枚用意し、次に最初の色の絵付けを行います。
最初の色の絵付けが終わると、十分乾燥させてから、800度前後に微調整した電気炉で焼き入れを行います。 この焼き入れ温度は、その日の気温や湿度によって調整しますが、このような気温、湿度だったら何度、というようなマニュアルは一切無く、職人の経験に基づく勘がたよりです。温度がうまく合わなければ、発色が悪かったり、ひび割れができたりしてしまいます。
焼き入れ後に自然に冷めるのを待ち、この段階で予想通りに発色したものだけ次の「キサゲ仕上」工程に回します。 この工程では焼き入れの途中で飛び散った釉薬や酸化物などを、キサゲという工具を使用して、丹念に取って行きます。
最後に水に浸しておいた炭で磨きます。 このあと、脱イオン水で洗浄して十分乾燥させ、二回目の絵付けに入ります。 一回目と同じように、絵付け、乾燥、焼き入れ、磨き、水洗い、乾燥を行い、色をのせて行きます。
ここで、片面のみに釉薬をのせて焼くためにおこる、「焼き反り」が出るため特殊な治具を使用して、その都度修正します。 最も難しいのは、1つの枠内に複数の色を使い、グラデーションを入れて行く「盛り合わせ」という作業です。
先にある色をのせておき、そのあと2色目をのせた瞬間、にじみが出るのですが、そのにじみが、多すぎても、少なすぎてもだめで、微妙な筆使いが求められます。
各工程ごとにチェックが入り、最終的に製品として合格するのは、十数枚用意したベースのうち2枚程度で、月産50枚程度が限度です。これだけ手間がかかっているので高額になるのは仕方の無いことで、庶民には高嶺の花となっています。(バルカンから発売されているクロワゾネダイアルのシリーズは200万円以上します) しかし唯一日本で、25万円程度で手にいれることができます。 それは、シェルマンのワールドタイムミニッツリピーター クロワゾネダイアルで、バーゼルフェア2002年にデビューして現在も販売されています。 ネット通販もされていますので、一度ご覧になってみてはいかがでしょうか?

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