第24回  時計の磁気帯び

時計の精度を狂わせる要因の1つに磁気帯びがあります。以前は、時計の精度を狂わせる要因の大半は水、および衝撃でしたが、防水性能の向上、およびカシオのGショック等の対衝撃性を備えた時計が開発されたことにより、これらの割合は低くなってきています。 代って急浮上しているのが、「磁気帯び」なのです。
ここ十年の間に、パソコンや携帯電話など、強い磁気を発生する機器が身の回りに急速に増えました。そして、時計もその強い磁気にさらされるようになったのです。水や衝撃とは違い、磁気は目に見えず、いつのまにか時計内部に入り込み、残留してしまいます。
また、すぐに外的障害が現れるわけではありませんので、余計に厄介です。時計が磁気を帯びてしまうと基本計時(規則正しく時間を刻む機能)が乱れて、時刻合わせを何度してもすぐに時刻が狂うようになってしまいます。磁気による影響は、機械式、アナログ式クォーツ、デジタル式クォーツによって異なります。
機械式は、テンプのヒゲゼンマイが、炭素鋼などの磁性材料でできており、磁気の影響で、テンプの振り角が狭くなり、時間が狂ったり、ゼンマイのパワーリザーブ時間が短くなったりします。また、部品が磁化してしまうために、磁界から遠ざけても磁気が残留してしまいます。
アナログ式クォーツの場合、永久磁石を使用したステップモーターを使用して、針を動かしています。磁気により、モーターの正常な回転が狂い、時間が遅れたり、進んだり、針が全く動かなくなったりします。しかし、短時間であれば、磁気から遠ざけ、改めて正確な時間に合わせ直しておけば、元に戻ります。 しかし、長時間磁気の影響を受けていると、部品が磁化してしまい、磁気から遠ざけても、元に戻らない場合があります。
デジタル式クォーツは、基本計時および駆動部分が完全に電子化されているため、磁気の影響は殆ど受けません。ただし、アラーム付等電磁スピーカーが付いているものは、強い磁界の中では、音が変調することもあります。
磁気は目に見えませんが、特別なものでもなんでもなく、我々の身の回りに溢れています。 テレビ、オーディオ、パソコン等の家電製品、携帯電話や、バック、家具のマグネット、エレキバンや磁気ネックレスなど、強い磁界を発生するものが、気が付かないうちに時計の精度を狂わせています。
磁界の強さを示す単位にはガウス(磁界線の密度を表す)とアンペアメーター(磁界の強さを表す)の2つが有りますがアンペアメーターの方が国際単位として認められています。(1ガウス=80A/m)
日常よく使用している電磁気製品の発生する磁界の強さはおおよそ以下の様になります。

テレビ密着状態で
800A/m程度
携帯ゲーム機密着状態で
2400A/m程度
パソコンスピーカー部密着状態で
3200A/m程度
オーディオスピーカー部密着状態で
12000A/m程度
携帯電話スピーカー部密着状態で
24000A/m程度
磁気ネックレス密着状態で
96000A/m程度
バック固定開閉磁石密着状態で
120000A/m程度

 特にオーディオスピーカーの上は小物置きとして最適なため、つい時計などを置いてしまいがちですが、時計にとっては最悪の環境になります。
また、サイフ、携帯電話、眼鏡等身の廻りのものを固めておくとき、時計も一緒にしてしまいがちですが、これも時計が携帯電話の磁界の影響を受けてしまいます。また、意外と盲点ですが、時計をカバンにしまう場合も、マグネットの付いているカバンは避けるべきです。
時計を磁気から守るには電磁気製品にできるだけ近づけないことが重要です。100000A/mの強い磁界でも1cm離せば10000A/m、5cm離せば500A/mまで弱まります。ですから時計の保管場所に気をつけて、できるだけ磁気の影響の無いところを選び、電磁気製品から必ず5cm以上離すようにしてください。
特に落としたり水に浸けてしまったりした覚えが無いのに、時間が狂うことが頻繁におこるようであれば、磁気帯びを疑ってみましょう。磁気帯びしてしまった時計はできるだけ早く、メーカーまたは時計専門店に依頼して、磁気抜きを行ってもらいましょう。