第27回 アラン・シルベスタインとバウハウス

アラン・シルベスタインの作る時計は、一目見たら忘れられない強烈な印象を 与えます。 まさに近代アートがそのまま時間を表示している感じがします。 アラン・シルベスタインは元々インテリアデザイナーとしてパリで活躍していましたが、1987年バーゼルフェアで3本の作品を発表しました。現代の時計は基本的に工業製品であり、どんな高級品であっても量産を前提と しています。 しかしアラン・シルベスタインはそれを、まさに芸術作品を仕上るのと同じ、職人が丁寧で繊細な作業を長い時間をかけて行なっています。年間の生産本数は約2000本、バウハウスの理念のもと、幾何学を取り入れたデザイン、赤、青、黄色といった原色を使い、他のブランドには無い、独創的な 個性を放つ時計を作り続けています。アラン・シルベスタインの時計は「アートピース」と呼ばれ、その幾何学デザインや色使い、そのデザインや機能に込められたメッセージと遊び心、そして数々の新機能開発が、常に世界中の注目を浴びています。
特に「スマイルデイ」と呼ばれる曜日表示はユニークで、曜日を表す文字の代りに、日曜日はニコニコ顔、月曜日は憂うつ顔といったように、表情で曜日を知らせるしくみになっています。 そしてアラン・シルベスタインは、機械式時計の複雑な機構を「使う」のではなく「活用し、革新してゆく」ことに、そして使いやすく、優れた機能と美しい デザインが結合した時計を作り続けることに情熱を燃やし続けています。
ところでアラン・シルベスタインのデザインのベースになっているバウハウスの理念とはどういったものなのでしょうか? デザインの勉強をされている方ならば、1度は耳にしたことがあると思いますが「バウハウス」は1919年、ドイツのワイマール市に開校された、造形芸術学校 のことです。 初代校長で建築家のW・グロピウスは、「生活機能の総合場である建築物(家)のもと、彫刻・絵画・工芸などの諸芸術と職人的手工作など一切の造形活動を結集して、芸術と技術の再統一を図る」という教育理念で、新しい教育システムを実施したのです。 この理念を簡単に言うと 「生活に豊かさをもたらすとともに、大量生産による工業製品に相応しい形を追求する = 格好良くて、しかも造り易いデザインを考える」となります。 教授陣としては、当事の高名な画家や、陶芸家、舞台芸術家等がおり、デザイン運動のひとつの頂点を確立したものとして高く評価されています。特に グラフィックデザインおよび家具デザインの分野で、その成果が世界中に認められています。 1926年には、グロピウス自身が設計したデッサウの校舎に移転して、近代工業が発展しつつある当時において、その生産形式・生活様式に応じた芸術のあり方を示しましたが、1933年にはナチスにより一時閉鎖されてしまいました。 現在その理念は、再開されたワイマール・バウハウス大学、シカゴの「ニュー・バウハウス」および、ドイツのウルム造形大学等によって継承され、全世界に広まっています。